五島さんは「社長と信頼関係を築かなければならない」とよく言っている。「5年で債務超過を解消して、自己資本経営をして……」と明るい未来を相手に想像させる語りをしている。ゴールが見えるからそのゴールに到達するためのコンサルと費用に価値を見いだすのだ。そこで私は「1年後にこうなっています。一緒にやっていきませんか」と伝えることにした。

 

財務コンサルタントと名乗りだしてから、つ大きく変わったことがある。社長の対応が違うのだ。それまでの「保険屋さん」から「財務コンサルの先生」になった。例えば、銀行交渉に社長と同席する際「うちがお世話になっている財務コンサルの先生です」と銀行に紹介される。銀行も私を「先生」と呼ぶ。肩書きが変わると価値が変わるのだ。同じ銀行格付けの話をしても保険屋が話すのと財務コンサルが話すのでは受け止める側が感じる価値が違うのだった。

 

財務コンサルタントという立場なので私はどの社長に会っても保険の話は一切しない。財務コンサルの途中で保険の見直しの話になり、「保険、うちでやりましょうか」と言うと「え? 先生のところで保険やっているんですか」と驚かれる。

 

私の中で保険の文字が完全に消えている。なぜなら財務コンサルの顧問料をいただいているからだ。そもそも保険屋の立場は低い。社長が対等に見てくれるまで貢献していかなければならない。しかし財務コンサルの先生は相手から請われて赴く。

 

 ある社長とゴルフに行くとする。「友人の社長を呼んでくださいよ」と提案して、私と3人の社長でゴルフに行くことになる。「うちがお世話になっているコンサルの先生です」と紹介される。ゴルフの後の食事でいろいろな話を聞く。「よろしかったら行きますよ。これとこれを用意しておいてください」と私は言う。コンサルの先生が来て悩みを解決してくれると社長は待っている。私は社長室に最短距離でまっすぐ入ることができるのだ。これが保険の名刺を持っていくと、社長室に到達するまでにどれだけの時間がかかることか。

私のコンサルで実績が出ている社長の紹介や「うちも何とかしてほしい」と思っている社長は、私との面談に満足してくれる。銀行員の態度も違う。人の先入観とはそんなものなのかもしれない。



(つづく)