20歳のときに入社したのは地元で誰もが知っている老舗の食品メーカーです。そこで営業マンとして5年ほど働きました。オーナー企業で、社長に気に入られていました。それなのに月収は手取りで18万円くらい。会社から与えられた予算を達成しても昇給は3000円程度。今振り返ると、総資産は100億円以上ある会社なのに、
利益を社員に還元しない会社でした。

 まだ若く、世の中のことが何も分かっていない時期です。こんなものかなと思って、疑問を抱きませんでした。

 そんな私が
「会社を辞めよう」
 と思うきっかけがあります。当時の私は5人の部下を持つ課長でした。その部下たちから
「どれだけ頑張って結果を出しても、ボーナスが増えないのはおかしい」
 と言われたのです。この訴えに対して私は何も言えなかったのです。

 オーナー企業のぼんぼん経営者ですから、私たちの営業努力など全く見えていない人でした。勇気をふるって社長に相談したところ、
「会社はいいときもあれば悪い時もある。いいときに給料を上げてもいいが、それなら悪い時に給料を削っても文句を言うなよ」
 という返事です。

 ああ、この社長は人の気持ちが分からないんだな。残念に思いました。

 周囲を見ると、営業マンの8割くらいが入れ替わっていました。入れ替わりを見ないふりをしてきたのですが、
直視せざるを得ない状況に私は立たされました。

「これ以上この会社におったらあかん。独立しよう」。
 こう決めました。

 自分の理想郷を築こう。そのために何をすればいいのだろう。

 私は工業高校の卒業です。18歳でカラオケ屋に入っていじめに遭い、転職した次のカラオケ屋は入社半年後に倒産し、3社目がここでした。学歴も資格も特技もありません。再就職できる自信がありません。

「宅建の資格を取れば食いっぱぐれない」
 と友人に聞き、仕事を続けながら勉強しました。帰宅後に3時間、週末は6時間、それこそ狂ったように勉強しました。努力の甲斐あって宅建の資格を取得し、就職活動をしたところ、たちまち3社の内定をもらいました。宅建の資格はすごいと思ったものです。

 ところが……。

 当時住んでいたアパートの大家さんに
「ここの管理をさせてくださいね」
 と言ったところ、思いがけない言葉が返ってきたのです。

「管理管理と言うけれど、あいつら何もしてくれない。誰か入居したら『カネくれ』と言うくせに、退室したらそれっきり。入居したらまたカネを取る。家具や家電を備え付けるのは大家の負担。あいつらは何のリスクも負わない」

 つてをたどって4~5人の大家さんの話を聞きました。不動産屋さんの話も聞きました。どの大家さんも同じような不満を持っていましたし、不動産屋さんは不動産屋さんで
「ノルマに追われたり家賃が下がったりして大変だ」
 とこれまた不満を聞かされました。

 不動産業界を垣間見て、誰もしあわせでないことを知りました。この業界に入っていいのだろうかという不安がわいてきます。

(つづく)